家づくりと物語性(古瓦の再利用)
家には豊かな物語を生み出すものになってもらいたい。
家の設計段階に始まり、住まいが完成してその住宅で過ごす長い時の中で心に刻まれる多くのストーリーが、
その住まいに関連して豊かなものであってほしいと願うものです。
住まいづくりの設計者として、自分が手がけた家にはそのような願いを込めています。
この思いの強さ、具現化ができるかどうかが、設計者の力量のバロメーターではないかとも思います。
ひと言に「物語性」といっても、その内容はさまざまでしょう。
家づくりのスタートとなる設計段階で、これに関わる設計者(私)の場合、
まずはプラン(建築計画)においてです。
玄関に入る前、入った後、リビングへの入り方、そしてその内部空間・・・
日々、建て主さんをどのように向かえ入れるか
どのような気分で過ごすことができる生活の場とするか
お客さんをどのように迎え入れるか
それらワンシーンごとにどれだけ豊かなストーリーを描くことができる場とするか・・・
それぞれの場にどのようなストーリーが描かれるようにするか
機能的、合理的にプランを組み立てることは、設計者として必要最低限の事として大事なものですが、
これにストーリー性を加えることこそが、建築家と呼ばれる人とそうでない設計者との差といえるのではないかと思います。
ところで、
現在工事が進む田端の住宅には、本格的とはいえないもののお茶室があり、
その外側には小さいながらも庭があります。
もともとの設計で、この庭の敷き砂利部と植込みとの境界には瓦を縦に埋め込むようにしていました。
現在、別の仕事で世田ヶ谷のお寺さんともお付き合いをさせて頂いているのですが、
たまたま、現在、こちらでは既設の建屋の一部を解体しています。
そこで思いついたのが、
このお寺で発生する瓦を上記のお宅の庭に使うことができないか
ということでした。
瓦は震災の復旧に伴って、未だに品不足なもの。
リサイクルが可能であれば、それに越したことはない。
この家に、ひとつのストーリーが生まれるひとつの要素にもなるだろう。
といった観点から考えたものです。
そこで、
まずは建て主さんに、このような古瓦の使用を内諾頂くべく連絡。
(「中古品を使う?」というような方ではないとは思いつつ)
第一声で「それはいいですね」との事。
次に、お寺の住職さんに。
「ご自由にどうぞ」とのお言葉。
そして、実際に手間をかけることになるそれぞれの施工会社へ。
(少量の廃材利用は高くつくもの)
(解体の業者さんにあっては手で瓦を一枚ずつ割らずに外して地上に並べてもらう必要があり、また譲り受ける施工者にはこれを引き取るダンプや人を手配してもらう必要が発生するものです)
結果、
全ての関係者に快く了解を頂くことができ、次のステップへ進むことができるようになりました。
譲り受けることになった瓦の並べ方については現在検討中ですが、
この家の建て主さんにとっては
「実はこの瓦は世田ヶ谷の・・寺というところから譲り受けて...」
というひとつのストーリーが提供できるものとなります。
これは家ができる前の小さなひとつの物語ではありますが。
写真は次の役目を待つ古瓦です。
住宅が完成して引き渡しを終えれば、
建て主さんがこの住宅を背景としてさまざまな物語をこれから作っていくことになります。
それまでに、その物語の背景として
押しつけでなく、
むしろ控えめに、
それでいて、これからの長い時を豊かに感じてもらえるような場を提供できれば、
というのが設計者である私の役割のような気がしています。
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